世界一分かりやすいネイピア数の導入
今や、「巨大ロボット」は当たり前の存在となっていた。
ロボット研究者たちの興味はすでに別のところにあった。
それは、「巨大化」である。
普段はコンパクトに保管できて、いざというときは巨大化して怪獣と闘う。
そんなロボットを開発するため、ロボット研究者たちは、ロボットをより速く、より大きく巨大化させるための研究に夢中になっていた。
そんなある日、タロウ君は、ハカセが新しいロボットを開発したと聞いて、ハカセの研究所へとやって来た。
「こんにちは、ハカセ!
ハカセの作った新しいロボットを見せてください!」
「よく来たな、タロウ君。
では、さっそく見せてあげよう。
これが、私の作った新しいロボットじゃ!」
「見た目は普通のロボットですね。
ハカセ、このロボットもやはり巨大化するのですか?」
「もちろんじゃ、タロウ君。
ロボットの背中を見てみたまえ。」
「この『巨大化ボタン』を押すことで、ロボットは
一定のスピードで巨大化
するのじゃ。」
「一定のスピード?
ハカセ、それはどれくらいのスピードなのですか?」
「ふふふ、聞いておどろくがいい。
なんと、
秒で 倍になる
スピードなのじゃ!」
「……え?
秒で 倍、ですか?」
「そうじゃ」
「あの……ハカセ。
秒で 倍になる
一定のスピード
で巨大化する……ってことは、
秒後には 倍、
秒後には 倍、……
という風に巨大化していく、ってことですよね?」
「うむ、そうなるな」
「でもハカセ、それだと
倍の大きさになるのに 秒もかかる
ことになりますよ?
最近のロボットは 倍の大きさになるのに 秒もかかりませんから、このロボット、実は大したことないんじゃないですか?」
「まあまあ、タロウ君、おどろくのはここからじゃ。
実はな、この『巨大化ボタン』は何度でも押すことができて、押すたびに巨大化のスピードが変わるのじゃ」
「巨大化のスピードが変わる?
いったい、どう変わるんですか?」
「よく聞くんじゃよ。実はな……
秒で
ボタンを押したときの大きさの
倍になる
スピード
に変わるんじゃ」
「 秒で、
『ボタンを押したときの大きさ』の、
倍?」
「そうじゃ。
実際にやってみた方が分かりやすいじゃろう」
「ロボットの最初の大きさは メートルじゃ。
まずは、最初の一回だけボタンを押してみよう」
「赤いマークが、ボタンを押したタイミングじゃ。
タロウ君の言う通り、このときは
秒で 倍の メートル、
秒で 倍の メートル、
秒で 倍の メートル、……
というように巨大化していくな」
「つまり、秒速 メートルのスピードですね。
これでは遅すぎます」
「そこで、今度は、
秒ごとにボタンを押し直してみる
のじゃ。まずは一回押すぞい」
「ここじゃ!
ここでもう一度ボタンを押すのじゃ」
「今、ロボットの大きさは メートル。
ここでボタンを押したということは、巨大化のスピードは
秒で
ボタンを押したときの大きさ、つまり メートルの
倍になる
スピード
……すなわち、
秒で
メートルから
メートルになる
スピード
に変わるんですね!」
「そうじゃ。つまり、秒速 メートルのスピードに変わるんじゃな」
「ここからさらに 秒待てば、ロボットの大きさは メートルになります」
「最初にボタンを押してから 秒で、 メートルまで大きくなりました。ここでまたボタンを押すんでしたよね、ハカセ?」
「うむ、そうしよう。
スピードはどう変わるかな?」
「今度は、
秒で
ボタンを押したときの大きさ、つまり メートルの
倍になる
スピード
……すなわち、
秒で
メートルから
メートルになる
スピード
に変わります!
さらに速くなりましたね!」
「うむ。
今度は秒速 メートルじゃな」
「最初にボタンを押してから 秒で、 メートルまで大きくなりました。
……あれ、結局 秒では メートルまで届きませんでしたね。やっぱり大したことないんじゃないですか?」
「いやいや、そんなことはないぞ、タロウ君。
実は、この方法を続けると、 秒後には メートルまで大きくなるのじゃ」
「え、 秒で メートル!?
それはすごいですね!」
「ふふふ、そうじゃろうそうじゃろう」
「でも、いざというときは 秒も待っている時間はないですよね。
何かもうちょっと速くする方法は……
あ!」
「む、どうしたタロウ君?」
「ハカセ、もっとスピードを速くする方法を思いつきました!
ボタンを押す間隔をもっと短く
すればいいんですよ!」
「なるほど、それはいい考えじゃ!
ボタンを押せばそのたびにスピードが上がることには違いないのじゃからな。
さっそくやってみよう!」
「さっきは 秒ごとの間隔だったので、今度は 秒ごとの間隔にしましょう。
ボタンを押しますね」
「 秒経ちました!
ここでもう一度ボタンを押します」
「今の大きさは メートル……ということは、秒速 メートルのスピードに変わるはずじゃな」
「あれ?
ハカセ、もしかして、ボタンを押したときのスピードって、
そのときの大きさに「秒速」をつけたスピードになる
んですか?」
「よく気づいたな、その通りじゃ。
これまでは丁寧に計算していたが、これからはこのルールを使って良いとしよう」
「はい、わかりました。
では、さらに 秒待ちます」
「最初にボタンを押してから 秒で、 メートルになりました!
やっぱり速くなってますね!」
「うむ。
このまま 秒経つまで続けてみよう」
「 秒後にボタンを押せば、スピードは秒速 メートルになります。
秒後の大きさは メートルです。
秒後にボタンを押せば、スピードは秒速 メートルになります。
秒後の大きさは メートルです。
秒後にボタンを押せば、スピードは秒速 メートルになります。
秒後の大きさは メートルです。
秒後にボタンを押せば、スピードは秒速 メートルになります。
秒後の大きさは……」
「最初にボタンを押してから 秒で、 メートルになりました!
やりました! メートルを超えましたよ!」
「うむ、やったな!
これでこのロボットのすごさが分かっただろう、タロウ君」
「はい!
それに、もっともっとボタンを押す間隔を短くすれば、さらにスピードは上がるはず……あ!
ハカセ、このボタンを押しっぱなしにしてはどうでしょう?」
「む、押しっぱなし、とな?」
「はい。
素早くボタンを押すのでは縮められる間隔に限界がありますが、押しっぱなしにしてしまえば
間隔 にしたも同然
です!」
「なるほど。
そうすれば、
スピードは大きさに合わせて絶えず増加していく
ことになるな。
面白そうじゃ」
「これで最高のスピードが出せるはずです。
やってみましょう!」
「おお、かなりの勢いで大きくなっていますね!
秒の時点で メートル以上まで行っていますよ!
でも、正確な大きさはよく分かりませんね。
これ、数字にするとどれくらいの速さなんでしょう?」
「うむ、それは気になるな。
試しに、 秒後の大きさを正確に測ってみよう」
( 分後……)
「これは……どういうことなんでしょう?
いくら細かく測っても正確な大きさが分かりませんよ……」
「ふむ、これは……。
もしかすると、正確な大きさを書き表せない特殊な数なのかもしれんな。
どれ、名前をつけるとしようか」
「え、名前を?
そんな軽い気持ちでつけていいものなんですか?」
「もちろんじゃ。
新しいものに出会ったらとりあえず名前をつける。
これは科学の基本じゃよ」
「そういうものなんですか」
「さて、どんな名前にしようかのう……」
「待て!」
「え?
誰ですか?」
「……」
「むむ、どこから入って来おった?」
「……ハカセ、その数に名前をつけるのはやめてもらおう」
「なんじゃと?」
「その数には、すでに別の人間によって名前がつけられているのだ」
「え、そうなんですか!
その名前、なんて言うんですか?」
「教えてやろう、それは……」
〜後半へつづく〜